『高齢者の低栄養を知る100の話“79”』
高齢者の低栄養予防は、健康や介護だけの問題ではありません。
食事を作る人、食材を生産する人、加工する人、届ける人、栄養を評価する人など、多くの地域の仕事と関係しています。
高齢者が地域で食べ続けられる仕組みをつくることは、地域の農業、食品産業、配食、物流、商店、専門職の仕事をつなぎ、地域経済を支える可能性があります。
「食べ物がある」と「食べられる」は違う
地域にスーパーや飲食店があっても、すべての高齢者が利用できるとは限りません。
運転できない、店まで歩けない、重い物を運べない、料理ができないといった理由で、食料品を十分に入手できない人がいます。都市部でも、近くの店が閉店したり、独居で外出が難しくなったりすれば、食品へのアクセスは悪化します。
農林水産省は、こうした食品アクセスの問題に対し、移動販売、宅配、買物バス、地域の小規模店舗などの事例を紹介しています[1]。
食べることを支えるには、食品を生産するだけでなく、本人の手元まで届け、調理や配膳を含めて実際に食べられる状態にする必要があります。
高齢者向けの食は、新しい地域需要になる
高齢者に必要なのは、単に量の多い食事や安い弁当ではありません。
少量でもエネルギーやたんぱく質を取りやすい食事、噛みやすい食品、地域になじみのある味、持ち運びや保存がしやすい商品など、生活と身体の状態に合った工夫が求められます。
こうしたニーズを地域の農産物や食品加工技術と結び付ければ、新しい商品やサービスを生み出せます。
例えば、地域の米、野菜、肉、魚、豆類などを、高齢者が食べやすい総菜、弁当、冷凍食品、間食などに加工する方法があります。地元農産物を施設、病院、配食、地域食堂などへ継続的に供給できれば、生産者にとって新たな販売先になります。
ただし、「地元産だから健康によい」とは限りません。栄養価、食べやすさ、衛生管理、価格、安定供給まで設計して初めて、高齢者を支える食になります。
配食は、食事と見守りを届ける
配食サービスは、食事を運ぶ仕事であると同時に、高齢者と定期的に顔を合わせる仕事でもあります。
弁当が前日のまま残っている、急に食べ残しが増えた、受け取りに出てこない、以前より元気がないといった変化に気づける可能性があります。
その情報を、本人の同意を得たうえで家族、ケアマネジャー、地域包括支援センター、医療機関などへ伝えれば、配食は低栄養や体調悪化を発見する地域の接点になります。
厚生労働省の健康支援型配食に関するガイドラインでも、利用者の身体・栄養状態を把握し、適切な食事を提供するとともに、継続時のフォローアップを行うことが重視されています[2]。
調理、盛り付け、受注、配送、見守り、栄養相談などが組み合わされば、地域の雇用や専門職の活動機会にもつながります。
地域の店や薬局も「食べる」を支えられる
スーパーやコンビニは、高齢者が普段の食品を購入する場所です。少量商品、食べやすい総菜、栄養を補える食品を選びやすく表示すれば、低栄養予防を支援できます。
薬局は、体重減少や食欲低下、薬の有害事象に気づき、医師や管理栄養士へつなぐことができます。必要性を確認したうえで、適切な食品や配食サービスを案内することも考えられます。
地域食堂や通いの場は、食事だけでなく共食や外出の機会をつくります。食事をきっかけに人が集まれば、交流、買い物、地域活動にもつながります。
それぞれが別々に商品やサービスを提供するのではなく、低栄養リスクの発見から食の提供、継続確認まで役割を分担することが重要です。
続けるには、事業として成り立たせる必要がある
高齢者の食支援を、善意やボランティアだけに頼ると、担い手の負担が大きくなり、継続できないことがあります。補助事業で始めても、終了後の費用や運営主体が決まっていなければ止まってしまいます。
利用者が支払える価格、事業者が継続できる利益、配送効率、食材の安定調達、専門職への対価などを考える必要があります。自治体、JA、生産者、食品企業、配食、医療・介護関係者などが、誰が費用と役割を担うのかを明確にすることも大切です。
評価する際も、提供した食数だけでなく、食べ残し、体重や食事量の変化、利用継続、地域食材の利用、支援につないだ件数などを確認します。
高齢者の「食べる」を支えることは、食事を福祉として届けるだけではありません。
健康上の必要性を把握し、地域の農産物や食品を、食べやすい形に加工して届け、変化を見守る。その一連の仕組みに、地域のさまざまな事業者と専門職が参加できます。
高齢者の健康を守る需要を、地域で継続できる仕事へ変えることができれば、低栄養予防と地域経済は互いを支える関係になります。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題ポータルサイト」
[2]厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理」
[3]農林水産省「円滑な食品アクセスの確保について」
[4]厚生労働省「地域包括ケアシステム」
初回公開日
2026年10月8日
最終更新日
2026年10月8日
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