87.地方ほど「病気になってから治す」だけでは支えられない

医療は、病気やけがを治すために欠かせません。しかし、人口減少と高齢化が進む地方では、症状が重くなってから医療機関で対応するだけでは、地域の暮らしを支えにくくなっています。

病院までの距離が長く、人材も限られています。重症化する人が増えれば、残された資源へ負担が集中します。

だから地方では、治療を弱めるのではなく、治療が必要になる前の支援を強くする必要があります。

「具合が悪ければ受診する」が難しい人もいる

地方では診療科が限られ、専門医療を受けるために遠方へ移動しなければならない地域があります。

車を運転できず、路線バスや家族の送迎もなければ、受診自体が負担です。受診を先延ばしにし、重くなってから救急搬送されることもあります。

オンライン診療は有効ですが、身体診察、検査、口腔や嚥下の評価など、対面確認が必要な場面もあります。国も、へき地等の医師不足や往診負担への対応として、医療者が患者のそばで支援する形を含むオンライン診療を進めています[1]。

一度の入院が生活を変えることがある

高齢者は、肺炎、転倒、骨折、脱水などをきっかけに入院すると、短期間でも筋力や生活機能が低下することがあります。

退院後に歩行、調理、服薬管理が難しくなれば、訪問医療、介護、配食などが必要です。地域にサービスがなければ、自宅へ戻れない場合もあります。

治療だけでなく、入院前の生活へ戻れるかまで考えなければなりません。一人の重症化が家族と地域に影響します。

予防とは健康教室だけではない

「予防」というと、体操教室や健康講座を思い浮かべるかもしれません。しかし、人口減少地域で必要な予防は、日常生活の変化を早く見つけ、適切な支援へつなぐ仕組みです。

例えば、次のような変化です。

  • 血圧や血糖の管理が不十分になった
  • 薬を飲み忘れるようになった
  • 転倒やむせが増えた
  • 食事量や体重が減った
  • 外出せず、人と会わなくなった
  • 買い物や調理が難しくなった

これらは、すぐに病名がつくとは限りません。しかし、放置すれば病気の悪化、フレイル、低栄養、要介護化へ進む可能性があります。

厚生労働省は、地域包括ケアについて、住まい、医療、介護、予防、生活支援を一体的に提供する考え方を示しています[2]。また、高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施し、医療・健診・介護の情報を活用する取り組みも進められています[3]。

低栄養は地域で見つけやすい変化の一つ

低栄養は、病院の検査だけで見つかるものではありません。「服が緩くなった」「弁当を残す」「買う食品が減った」といった生活の中の変化から気づけます。

薬局で薬を受け取るとき、配食を届けるとき、訪問介護やデイサービスを利用するときなど、日常の接点で体重や食事量を確認できます。そこでリスクを見つけ、医師、歯科、薬剤師、管理栄養士、ケアマネジャーなどへ情報を渡せば、病気、薬、口腔、嚥下、生活環境といった原因への介入につながります。

医療資源が少ない地域ほど、医師がすべての高齢者の変化を最初に見つけることは困難です。地域の接点が発見を担い、専門職が評価と介入を担う役割分担が必要です。

予防と治療は対立しない

予防を強化しても、病気やけがをすべて防ぐことはできません。救急、入院、手術、介護の体制は引き続き必要です。また、重い症状がある人に、受診より予防活動を優先してはいけません。

重要なのは、予防か治療かを選ぶことではなく、早期発見、受診、治療、退院支援、生活支援を切れ目なくつなぐことです。

厚生労働省も、人口減少の進み方が地域ごとに異なることを踏まえ、予防・健康づくり、人材確保、デジタル活用などを通じて地域包括ケアを維持する方向を示しています[4]。

地方の医療を守るとは、病院だけを守ることではありません。住民が重症になる前に変化へ気づき、必要な医療へ早くつながり、治療後も地域で暮らせる仕組みを守ることです。低栄養予防は、その仕組みを日常の中から動かす入口になります。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「自治体におけるオンライン診療・遠隔医療の導入に関する取組事例」
[2]厚生労働省「地域包括ケアシステム」
[3]厚生労働省「高齢者保健事業の実施計画(データヘルス計画)策定の手引きに係る検討資料」
[4]厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」

初回公開日
2026年10月14日

最終更新日
2026年10月14日