『高齢者の低栄養を知る100の話⑲』
低栄養は、見た目や血液検査の一項目だけでは決められません。痩せていても栄養状態が保たれている人がいる一方、体格が大きくても、病気や食事量の低下によって筋肉を失い、低栄養になっている人もいます。
低栄養を世界共通の考え方で診断するために作られたのが、GLIM基準です。
GLIMは「Global Leadership Initiative on Malnutrition」の略称です。世界の主要な臨床栄養学会が協力し、2018年に成人の低栄養診断基準を提唱しました。食べ物が足りないことによる低栄養だけでなく、病気や炎症に伴う低栄養も捉えることが特徴です。[1]
MNA-SFとGLIM基準は役割が違う
MNA-SFとGLIM基準は、どちらも栄養状態の確認に使われますが、役割が異なります。
MNA-SFは、低栄養の可能性がある人を見つける「スクリーニング」の道具です。GLIM基準は、スクリーニングで低栄養リスクがあると判断された人について、低栄養に該当するかを評価する「診断」の枠組みです。
基本的な流れは、次のようになります。
1.MNA-SFなど、検証された方法で低栄養リスクを確認する
2.リスクがある人をGLIM基準で評価する
3.低栄養に該当する場合は重症度を判定する
4.原因を調べ、疾患、口腔内の治療、薬剤の変更、栄養治療や生活支援につなげる
MNA-SFの点数が低いだけで、GLIM基準による低栄養診断が確定するわけではありません。
診断に使う「表現型基準」
GLIM基準では、身体に現れている変化を「表現型基準」と呼びます。確認するのは次の3項目です。
1.意図しない体重減少
本人が減量しようとしていないのに、体重が減っている状態です。目安として、過去6か月で5%を超える体重減少、または6か月を超える期間で10%を超える体重減少などを確認します。
50kgだった人の5%は2.5kgです。「まだ痩せて見えない」としても、短期間の体重減少は重要な変化です。
2.低BMI
身長に対して体重が少ない状態です。判定値は年齢や地域によって異なり、日本を含むアジアで用いる基準にも配慮が必要です。
ただし、BMIだけで低栄養とは診断しません。以前から細身で体重が安定している人と、病気で急に痩せた人を同じように扱わないためです。
3.筋肉量の減少
体重だけでなく、筋肉が減っていないかを確認します。筋肉量は、体組成計、DXA、CTなど、利用できる測定方法と適切な基準値を用いて評価します。握力だけを筋肉量の代わりにするのではなく、信頼できる方法による評価が求められます。
この3項目のうち、少なくとも一つに該当することが第一の条件です。[2]
原因を示す「病因基準」
身体の変化だけでなく、なぜ低栄養になったのかに関係する項目も確認します。これを「病因基準」と呼び、次の2項目があります。
1.食事摂取量の減少または消化吸収能の低下
食欲不振、噛みにくさ、飲み込みにくさ、吐き気、下痢などにより、必要な量を食べられない、または食べても十分に吸収できない状態です。
独居、買い物困難、経済的な問題などが食事量の減少につながっている場合もあります。
2.疾患による負荷または炎症
感染症、手術、外傷、がん、心不全、慢性肺疾患、腎疾患などでは、病気や炎症によってエネルギーやたんぱく質の消費が増え、筋肉が分解されやすくなることがあります。
病名があるだけで自動的に該当するのではなく、その病気が栄養状態に影響するほどの負荷や炎症を伴うかを、医療者が判断します。
病因基準も、2項目のうち少なくとも一つへの該当が必要です。
「表現型」と「病因」の両方が必要
GLIM基準による低栄養診断では、表現型基準から一つ以上、病因基準から一つ以上に該当することが必要です。
たとえば、「半年で体重が5%以上減った」という表現型の変化があり、「食欲低下で食事量が大きく減った」という病因もあれば、低栄養診断につながります。
一方、BMIが低いだけで、体重減少も食事量低下も病気の負荷も確認できない場合は、それだけでGLIM基準による低栄養とは診断しません。また、重い病気があっても、体重、BMI、筋肉量に該当する変化がなければ、診断には至りません。
この仕組みによって、「痩せているから低栄養」「病気だから低栄養」という単純な決めつけを避けています。
血清アルブミン値だけでは診断しない
血液検査のアルブミン値が低いと、「低栄養だ」と説明されることがあります。しかし、アルブミン値は炎症、肝機能、腎機能、水分状態などの影響も受けます。
GLIM基準では、血清アルブミン値は診断項目に含まれていません。検査値は全身状態を考えるうえで役立ちますが、一つの数値だけで低栄養を決めないことが重要です。
診断後は重症度と原因を確認する
低栄養と診断された場合は、体重減少、低BMI、筋肉量減少という表現型基準を使って、「中等度低栄養」または「重度低栄養」に分類します。[1]
診断名や重症度を付けることが目的ではありません。食事量が減った理由、噛む・飲み込む機能、病気や炎症、薬の影響、生活環境などを確認し、その人に必要な対応を考えます。
病気が原因であれば、その治療と並行した栄養管理が必要です。原因を確認せず、栄養補助食品を加えるだけでは解決しないこともあります。
「成人低栄養」が国際的な病名へ
2025年10月、WHOは国際疾病分類ICD-11に「Undernutrition in Adults(成人低栄養)」の診断コード5B72を追加することを承認しました。2027年からの発効が予定され、病気に伴う炎症の程度や、飢餓に関連する低栄養などの分類が設けられます。[3]
これは、成人の低栄養が単なる「食事不足」や「体質」ではなく、診断し、原因に応じて対応すべき疾患として国際的に位置づけられたという大きな変化です。GLIMの考え方とも整合する分類となっています。
ただし、ICD-11への収載によって、日本で直ちに診療報酬や保険給付が変わるという意味ではありません。国内での導入や保険制度上の扱いは、別途決められます。
地域で見つけ、医療で確かめる
GLIM基準は医療的な診断の枠組みであり、本人や家族が自己診断するためのものではありません。一方で、体重減少や食事量低下は、家庭、薬局、介護施設、配食、地域の健康相談などでも気づくことができます。
地域でMNA-SFなどを使ってリスクを見つけ、体重や食事の記録とともに医療機関へ伝える。医療機関ではGLIM基準を含む詳しい評価を行い、原因の診断と治療につなげる。この役割分担が重要です。
GLIM基準が示しているのは、低栄養は「もっと食べればよい」で終わる問題ではないということです。
「リスクを見つける→身体の変化と原因を確認する→診断する→治療・支援する→経過を見る」。この流れを地域と医療の共通言語にすることで、見過ごされてきた低栄養を、より早く適切な支援につなげられるようになります。
執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1] 日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2] Cederholm T, et al. “The GLIM consensus approach to diagnosis of malnutrition: A 5-year update”
[3] Uenishi M, Song P. “New diagnostic code ‘5B72 Undernutrition in Adults’ approved for inclusion in the 11th Revision of the International Classification of Diseases”
[4] World Health Organization「ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics」 of the Mini Nutritional Assessment Short-Form(MNA-SF): A practical tool for identification of nutritional status”
初回公開日
2026年9月10日
最終更新日
2026年9月10日
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