42.経済的な問題と高齢者の低栄養

高齢者が十分に食べられない背景には、食欲や病気だけでなく、経済的な問題が隠れていることがあります。

年金など限られた収入の中で、住居費、光熱費、医療費、介護費を支払うと、食費を減らさざるを得ない人もいます。

しかし本人は、家族へ迷惑をかけたくない、困っていることを知られたくないと考え、「食欲がない」「簡単な物で十分」と説明するかもしれません。

経済的な問題による低栄養は、本人の努力や食事知識だけでは解決できない、社会的な課題です。

食費は調整しやすいため削られやすい

家賃、電気代、医療費などには、毎月支払わなければならない金額があります。一方、食費は、食べる量や買う物を変えることで調整できます。

そのため、生活費が足りなくなると、肉や魚、乳製品、果物などを買う回数を減らす、一日三食を二食にする、自分の食事を家族より後回しにするといったことが起こります。

冬に暖房費が増える、病気で医療費がかかる、家電が故障するなど、一時的な出費をきっかけに食費が減る場合もあります。

農林水産省は、低所得者層の割合が拡大する中、経済的な理由によって十分な食料を入手できず、健全な食生活を実践できない人が増えていると考えられるとして、食品への「経済的アクセス」を課題に挙げています[1]。

安価な食品だけでは栄養が偏ることがある

食費を抑えようとすると、米、パン、麺など、空腹を満たしやすい主食が中心になりがちです。

主食は身体を動かすエネルギー源として必要です。しかし、ごはんと漬物、パンと飲み物、麺だけという食事が続けば、筋肉や身体をつくるたんぱく質、ビタミン、ミネラルなどが不足する可能性があります。

総菜や弁当を買う場合も、価格を優先して主食の多い商品を選び、主菜や副菜を買わないことがあります。

「三食食べている」「おなかは満たされている」ことと、必要な栄養を取れていることは同じではありません。

低栄養は食べ物が全くない状態だけで起こるのではなく、食事の量や食品の種類が少ない状態が続くことでも進みます。

見えにくい費用も食生活に影響する

経済的な問題は、食品の購入費だけではありません。

近くの店が閉店し、遠くのスーパーまで行く交通費が必要になる。宅配や配食を利用したくても、配送料や継続費用を負担できない。古い冷蔵庫や電子レンジが故障しても買い替えられず、食品を保存・調理できない。

歯科受診を控えた結果、歯の痛みや合わない義歯を放置し、食べられる食品が減る場合もあります。補聴器や眼鏡、歩行補助具などが必要でも購入できず、買い物や調理が難しくなることもあります。

病気に合わせた食事や栄養補助食品を勧められても、費用のために続けられない人がいます。

本人が「勧められた食事をしていない」とき、意欲や理解だけでなく、実行するための費用を負担できるかも確認する必要があります。

経済的な困り事は言葉にされにくい

家族や医療・介護の専門職は、次のような変化に注意します。

  • 肉、魚、卵、乳製品を買わなくなった
  • ごはん、パン、麺だけの食事が増えた
  • 一日一食、二食の日がある
  • 冷蔵庫がほとんど空になっている
  • 少量の商品より、安い大容量品を買って食べ切れない
  • 医療費や光熱費の支払いを心配している
  • 栄養補助食品や配食を費用のために中断した
  • 暖房や冷房を使わず、体調を崩している
  • 意図しない体重減少がある

「お金に困っていますか」と直接聞くだけでは、答えにくいことがあります。

「食費を抑えるために、買わなくなった物はありますか」「月の後半になると食事が減ることはありませんか」「配食や栄養補助食品を続ける費用は負担になっていませんか」と、具体的に尋ねます。

安く栄養を取る工夫にも限界がある

比較的手頃な価格でたんぱく質を取れる食品として、卵、豆腐、納豆、牛乳、魚の缶詰などがあります。冷凍野菜や乾物は保存しやすく、食品ロスを減らす助けになります。

たとえば、うどんに卵を加える、ごはんに納豆や豆腐を添える、パンと一緒に牛乳を飲むなど、少ない費用と手間で栄養を補える場合があります。

健康長寿ネットで紹介されている自治体の低栄養予防事業でも、食費が十分にない人に対し、低コストでエネルギーを確保する調理法などが助言されています[2]。

ただし、食品を買うためのお金そのものが足りない場合、安い食品の選び方だけを伝えても解決しません。「工夫が足りない」と本人へ責任を負わせないことが重要です。

食事の問題として支援につなぐ

食費や生活費に困っている場合は、市区町村の福祉相談窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会などへ相談します。介護サービスを利用している人は、ケアマネジャーにも伝えてください。

通院中であれば、医療機関の医療ソーシャルワーカーへ、医療費や利用できる制度について相談できる場合があります。

地域によっては、配食助成、見守りを兼ねた食事支援、移動販売、会食の場、フードバンクやフードパントリーなどが利用できることがあります。制度や対象条件は自治体によって異なるため、住んでいる地域で確認します。

体重減少や低栄養が疑われる場合は、経済的支援だけでなく、病気、口腔機能、薬、認知機能などの確認も必要です。食費の不足と身体的な問題が重なっていることもあります。

経済的な理由で食事を減らすことは、恥ずかしいことではありません。食べ物を確保することは、生命と健康を守るための基本です。

「何を食べればよいか」を伝える前に、「必要な食べ物を買える状況にあるか」を確認する。本人だけで抱え込ませず、栄養と生活の支援を一緒につなぐことが、低栄養予防には欠かせません。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]農林水産省「円滑な食品アクセスの確保」
[2]公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の低栄養予防・疾病重症化予防の取り組み――自治体の事例」
[3]厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
[4]農林水産省「食品アクセス(買物困難者等)問題ポータルサイト」

初回公開日
2026年9月24日

最終更新日
2026年9月24日