44.高齢者に「もっと食べて」と言うだけでは解決しない

食事を残すことが増え、体重も落ちてきた高齢者を見れば、家族が「もっと食べて」「これだけでも食べて」と言いたくなるのは当然です。心配だからこそ出る言葉でしょう。

しかし、高齢者の食事量が減っているとき、「もっと食べて」という声かけだけで解決することは多くありません。

なぜなら、本人が自分の意思で食べないのではなく、何らかの理由によって「食べられない」状態になっている可能性があるからです。

本人も食べなければならないことは分かっている

食事を勧められている本人も、多くの場合、「食べたほうがよい」「家族に心配をかけたくない」と分かっています。それでも箸が進まないのです。

食欲がない、すぐにお腹がいっぱいになる、噛むと痛い、飲み込みにくい、食べると疲れる、吐き気がする――。そのような状態で繰り返し食事を勧められると、本人は「食べられない自分が悪い」と感じることがあります。

食卓が楽しい場所ではなく、努力を求められたり、食べ残しを責められたりする場所になれば、食事そのものが苦痛になるかもしれません。残した食事を隠す、食べたと答える、家族と一緒に食べることを避けるといった行動につながる場合もあります。

必要なのは、本人の努力を増やすことではなく、食べることを妨げている原因を見つけることです。

「食べない」のではなく、どこで困っているのか

食べることは、空腹を感じて料理を用意し、姿勢を整え、食べ物を認識し、口へ運び、噛んで飲み込み、消化するまでの長い過程です。そのどこか一つに問題が起きても、食事量は減ります。

例えば、次のような原因があります。

  • 病気や炎症、痛み、息苦しさ、便秘などで食欲が落ちている
  • 歯や入れ歯が痛い、口が乾く、噛めない、むせる
  • 薬を変更してから、吐き気や味覚の変化、眠気が現れた
  • 抑うつ、悲しみ、孤独によって食べる気持ちが起こらない
  • 認知機能が低下し、料理を食べ物と認識できない
  • 買い物や調理、配膳、後片付けが負担になっている
  • 容器を開けられない、箸を使いにくい、姿勢を保てない
  • 食費を抑えるため、食事の量や回数を減らしている

このように、少食に見える状態の背景には、身体、口腔、薬、心理、認知機能、生活環境、経済状況など、複数の問題が重なっていることがあります。

命令ではなく、具体的な質問に変える

「もっと食べて」という言葉を、原因を探す質問に置き換えてみましょう。

「何なら食べやすそう?」
「噛むと痛いところはない?」
「食べるとむせたり、気持ち悪くなったりする?」
「いつ頃から食べる量が減った?」
「準備と後片付けのどこが一番大変?」
「薬が変わってから、体調に変化はなかった?」

「なぜ食べないの?」という問い方では、本人が責められていると感じる可能性があります。「どこか困っていることはない?」と尋ねるほうが、具体的な問題を話しやすくなります。

本人がうまく説明できない場合は、家族が食事の様子を観察します。何をどのくらい食べたかだけでなく、食事にかかる時間、むせ、口の痛み、眠気、姿勢、便通、薬の変更、体重の変化なども手がかりになります。

食べる量より、食べる負担を減らす

一度にたくさん食べられない人には、三食を無理に完食させるより、少量の食事や間食を複数回に分ける方法があります。

卵、乳製品、豆腐、魚、肉などのたんぱく質を少量ずつ加える、料理に油や乳製品を加えてエネルギーを補う、本人の好きな料理や昔から食べ慣れた味を取り入れる、といった工夫も考えられます。

また、食事を並べ過ぎると負担に感じる人には、少量を小さな器に盛る方法が向いていることがあります。食事の時間に疲れているなら、比較的体調のよい時間へ変更してもよいでしょう。

ただし、むせや飲み込みにくさがある人の食形態を、家族の判断だけで変更するのは避けます。柔らかくすれば必ず安全とは限りません。医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士、管理栄養士などによる評価が必要です。

無理に食べさせることには危険もある

食べないことが心配でも、急いで口へ運ぶ、口を開けるよう強く求める、むせているのに食事を続けるといった介助は危険です。誤嚥や窒息につながるだけでなく、本人に恐怖や拒否感を残すことがあります。

「全部食べなければならない」という目標より、「安全に、苦痛を少なく、食べられるものを食べられる量だけ」という視点が大切です。

適切な姿勢、落ち着いた環境、本人のペースに合わせた介助、食事を一緒に楽しむ人の存在なども、食べやすさを左右します。栄養ケアは栄養素を補うだけでなく、その人が食べられる環境を整えることでもあります。[1][2]

家族だけで抱え込まない

食事量の低下が続く場合は、その原因に合った専門職へ相談します。

病気や急な体調変化は医師へ、歯や入れ歯、口の痛みは歯科医師や歯科衛生士へ、薬を変更してからの不調は医師やかかりつけ薬剤師へ相談します。食事量や栄養の組み立ては管理栄養士、飲み込みや食事介助は看護師や言語聴覚士などが支援できます。

買い物、調理、孤立、経済的な問題が関係している場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談することで、配食、買い物支援、通所サービス、生活支援などにつながる可能性があります。

認知症のある人を含め、高齢者の低栄養対策では、定期的な確認と原因の評価を行い、その人に合わせて複数の支援を組み合わせることが重要です。[3]

食事や水分をほとんど取れない、急激に体重が減った、意識がいつもと違う、繰り返し嘔吐する、突然飲み込めなくなった、強くむせて呼吸が苦しそうといった場合は、早めに医療機関へ相談してください。

「もっと食べて」から「どうしたら食べられる?」へ

高齢者の食事量が減ったとき、家族も強い不安を感じます。しかし、その不安を「もっと食べて」という言葉だけで本人へ渡しても、問題の原因はなくなりません。

必要なのは、食べるよう説得することではなく、「なぜ食べられないのか」「何を変えれば食べやすくなるのか」を一緒に探すことです。

「もっと食べて」から、「どうしたら食べられそう?」へ。

その問いの変化が、本人の尊厳を守りながら、適切な栄養ケアへつなげる最初の一歩になります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1] Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition. 2022;41(4):958–989.
[2] 国立長寿医療研究センター 摂食嚥下・排泄センター「食事介助技術の評価と研究」
[3] Volkert D, et al. ESPEN guideline on nutrition and hydration in dementia―Update 2024. Clinical Nutrition. 2024;43(7):1599–1626.
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養」「地域高齢者の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方」

初回公開日
2026年9月25日

最終更新日
2026年9月25日