47.健康診断を受けていても低栄養を見逃すことがある

「毎年、健康診断を受けているから大丈夫」

そう考えている高齢者や家族は少なくありません。健康診断は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、腎臓病などを早期に発見し、健康状態を確認するために大切な機会です。

しかし、健康診断を受けていて、検査結果に大きな異常がなくても、低栄養が始まっていることがあります。

健康診断が役に立たないのではありません。一般的な健康診断と低栄養の評価では、見ているものが異なるからです。

健康診断の主な目的は低栄養の発見だけではない

40~74歳を対象とする特定健康診査は、主にメタボリックシンドロームに着目し、生活習慣病の予防につなげることを目的としています。[1]

そのため、体重、BMI、腹囲、血圧、血糖、脂質、肝機能などが確認されますが、日々の食事量、最近食べられなくなった食品、筋肉量、買い物や調理の状況まで詳しく評価するとは限りません。

一方、75歳以上の後期高齢者に対しては、高齢者の特性を踏まえた質問票が用意されています。

この質問票には、「1日3食きちんと食べていますか」「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」「お茶や汁物等でむせることがありますか」「6カ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか」といった項目があります。[2]

こうした質問は低栄養の兆候を見つけるうえで有用です。ただし、質問票はあくまで気づきの入口です。回答後に詳しい確認や支援へつながらなければ、原因までは分かりません。

BMIが正常でも安心とは限らない

低栄養というと、極端に痩せた人を想像しがちです。

しかし、現在のBMIが正常範囲に入っていても、以前から大きく体重が減っていれば注意が必要です。

例えば、身長160cm、体重70kgだった人が、半年ほどで62kgになったとします。BMIは約24.2で、数値だけを見れば著しい低体重ではありません。それでも、本人が意図していない8kgの体重減少には、病気、食事量の低下、筋肉量の減少などが隠れている可能性があります。

国際的な低栄養診断基準であるGLIM基準でも、低BMIだけでなく、意図しない体重減少や筋肉量の減少を確認します。さらに、食事摂取量や消化吸収の低下、病気による炎症などを組み合わせて評価します。[3]

「今の体重が何kgか」だけでなく、「以前からどのくらい変化したか」が重要なのです。

血液検査だけで低栄養を判断することはできない

健康診断の血液検査に大きな異常がなければ、「栄養状態も問題ない」と思うかもしれません。

しかし、低栄養は血液検査の一つの数値だけで診断するものではありません。血液中の成分は、栄養状態だけでなく、炎症、肝臓や腎臓の機能、水分状態など、さまざまな影響を受けます。

反対に、食事量が減って筋肉が落ち始めていても、血液検査には目立った変化が現れていないことがあります。

検査値を見ることは大切ですが、それと同時に、体重の推移、食事量、筋肉量、病気や炎症の有無、生活機能などを総合的に確認する必要があります。

年に一度の健診では途中の変化を捉えにくい

健康診断は通常、決まった時点での身体の状態を確認します。

しかし、高齢者の栄養状態は、病気、入院、薬の変更、配偶者との死別、転居、歯や入れ歯の不調などをきっかけに、数カ月の間で変化することがあります。

健診を受けた直後に食欲が落ちても、次の健診が一年後であれば、その間の変化は本人や周囲の人が気づかなければ把握できません。

また、体重減少を自覚していても、「少し痩せたほうが健康によい」「年を取れば食が細くなるのは当然」と考え、健診時に伝えない人もいます。

年に一度の結果だけでなく、家庭、診療所、薬局、介護サービスなどで、体重や食事の変化を継続して見ることが大切です。

健診結果に加えて確認したいこと

健康診断の結果に大きな異常がなくても、次のような変化があれば低栄養リスクを確認します。

  • 6カ月間で2~3kg以上、意図せず体重が減った
  • 食事の量や回数が減った
  • 肉、魚、卵などを食べる機会が減った
  • 固いものを避ける、むせる、食事に時間がかかる
  • ふくらはぎが細くなった、力が弱くなった
  • 歩く速度が遅くなり、外出が減った
  • 服や指輪が緩くなった
  • 病気や入院の後から体重が戻らない
  • 薬が変わってから食欲が落ちた
  • 買い物や調理が難しくなった

一つでも当てはまれば必ず低栄養というわけではありません。しかし、複数の変化がある場合や、体重減少が続いている場合は、かかりつけ医や管理栄養士などへ相談するきっかけになります。

MNA-SFなどの検証された栄養スクリーニングを行い、リスクがあれば詳しい評価へ進むことも重要です。[3]

健康診断を「安心の証明」ではなく「比較の起点」にする

健康診断は、一度受けて終わりではありません。過去の結果と並べて見ることで、体重や検査値がどのように変化しているかを確認できます。

特に体重は、毎回の数値を記録しておくことが大切です。自宅で定期的に測定し、健診時、受診時、薬局や介護サービスで得られた情報とつなげることで、小さな変化を早く見つけやすくなります。

後期高齢者の質問票も、健診だけでなく、地域の通いの場やかかりつけ医療機関など、さまざまな場所で活用することが想定されています。[4]

健康診断で異常を見つけることも大切ですが、異常がなかったからといって、その後の変化を見なくてよいわけではありません。

「検査結果は正常だったか」に加えて、「以前より痩せていないか」「食べる量や動く力が落ちていないか」を確認する。

その視点を加えることで、健康診断だけでは捉えにくい低栄養を、早い段階で見つけられるようになります。


執筆者
一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料

[1] 厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」
[2] 厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施の推進に向けたプログラム検討のための実務者検討班報告書」―後期高齢者の質問票
[3] 日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[4] 厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施について」
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」

初回公開日
2026年9月26日

最終更新日
2026年9月26日