65.どんな低栄養なら医療機関につなぐべき?

地域で体重減少や食事量低下に気づいたとき、「すぐ病院へ行くほどなのか」「まず食事を工夫して様子を見てよいのか」と迷うことがあります。

すべての低栄養リスクが救急受診を必要とするわけではありません。しかし、低栄養の背景に病気、脱水、嚥下障害、薬の有害事象などがある場合は、食事の助言だけで様子を見ると対応が遅れるおそれがあります。

判断するときは、スクリーニングの点数だけでなく、「変化の速さ」「食べられている量」「伴う症状」「持病や薬」「生活への影響」を組み合わせて考えます。

直ちに医療へつなぐ状態

次のような状態では、低栄養への対応よりも、生命に関わる病気や脱水、誤嚥などへの対応を優先します。

  • 水分をほとんど取れず、尿も極端に少ない
  • 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い
  • 強い息苦しさや胸痛がある
  • 繰り返し嘔吐している
  • 吐いた物や便に血が混じる
  • 高熱、強い腹痛、急激な体調悪化がある
  • 食べ物を詰まらせた、呼吸が苦しい
  • むせた後に発熱や呼吸状態の悪化がある

このような場合は、本人を一人にせず、状態に応じて救急要請を行います。「低栄養だから弱っている」と決めつけないことが重要です。

早めの受診が必要な低栄養リスク

緊急性はなくても、次のような場合は、できるだけ早くかかりつけ医などへ相談します。

第一は、意図しない体重減少が短期間に進んでいる場合です。国際的なGLIM基準では、6か月以内に5%を超える意図しない体重減少が、低栄養を判断する表現型基準の一つです[1]。

例えば、60kgだった人が意図せず3kg以上減った場合に相当します。体重減少の程度だけで低栄養の診断はできませんが、「年のせい」で済ませず、原因を確認すべき変化です。

第二は、食事量が大きく低下している場合です。いつもの半分程度しか食べられない状態が続く、ほとんど食べられない日がある、水分も減っているといった場合は、脱水や電解質異常を伴う可能性があります。

特に、長期間ほとんど食べておらず、著しくやせている人では、自己判断で急に大量の食事や栄養剤を摂取すると、体内の電解質が大きく変化する「リフィーディング症候群」を起こす危険があります。重度の低栄養が疑われる場合は、医療・栄養の専門職の管理のもとで栄養を増やすことが大切です[2]。

第三は、低栄養以外の症状を伴う場合です。発熱、痛み、息切れ、強いだるさ、嘔吐、下痢、便秘、腹部の張り、黄疸、出血などがあれば、病気が食欲低下や体重減少を引き起こしている可能性があります。

「食べたいのに食べられない」は医療につなぐ

本人に食欲があっても、噛めない、飲み込めない、食事中にむせる、食後に声がかすれる、口の中に食べ物が残るという場合は、食べる機能の評価が必要です。

むせが少なくても誤嚥していることがあるため、「むせないから安全」とは限りません。食事に非常に時間がかかる、特定の食品を避けるようになった、肺炎を繰り返しているといった変化も重要です。

歯の痛みや義歯の不具合が中心なら歯科医院へ、嚥下障害が疑われる場合は、かかりつけ医、歯科医師、耳鼻咽喉科、言語聴覚士などにつなぎます。

食事を細かく刻む、とろみをつけるといった対応も、状態によってはかえって食べにくくなるため、専門的な評価を受けることが望まれます。

持病がある人は食事を増やす前に相談する

心不全、腎臓病、肝臓病、糖尿病、慢性呼吸器疾患、がんなどがある人では、病気や炎症が低栄養に関係している可能性があります。

同時に、水分、塩分、たんぱく質、糖質などに個別の配慮が必要な場合があります。「低栄養だから高カロリー・高たんぱくにすればよい」と一律に考えると、持病を悪化させることがあります。

病気の治療方針と栄養管理を調整する必要があるため、かかりつけ医や病院の管理栄養士へ相談します。GLIM基準でも、疾患による負荷や炎症は低栄養診断の病因基準に含まれています[1]。

薬が変わってから食べられない場合

新しい薬を始めた後や薬が増えた後に、吐き気、口の渇き、味覚の変化、便秘、眠気、食欲低下などが現れた場合は、薬剤師または処方医へ相談します。

高齢者では複数の薬の影響が重なることもあります。処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品を含めた確認が必要です[3]。

ただし、本人や家族の判断で薬を中止してはいけません。いつ薬が変わり、いつから食事量や体重が変化したのかを整理して伝えると、原因を検討しやすくなります。

地域で様子を見られる場合にも条件がある

食事量の低下が軽く、原因が一時的で、体重が安定し、発熱や痛み、嚥下障害などがなく、本人が普段どおり活動できている場合は、管理栄養士などの助言を受けながら地域で経過を見ることもあります。

ただし、「様子を見る」とは何もしないことではありません。

  • 体重を同じ条件で定期的に測る
  • 食事回数やおおよその摂取量を記録する
  • 食欲、むせ、便通、活動量を確認する
  • 再評価する日をあらかじめ決める
  • 悪化した場合の相談先を決めておく

食事を工夫しても改善しない、さらに体重が減る、食事量が戻らない、生活動作が低下するといった場合は、医療機関につなぎます。最初のスクリーニングでリスクが軽度でも、変化が続く場合は再評価が必要です。

迷ったら「診断」ではなく「情報提供」をする

地域の支援者が、病気の有無や低栄養の重症度を確定する必要はありません。迷ったときは、かかりつけ医や薬剤師、訪問看護師などへ情報を伝え、判断を求めます。

「低栄養だと思います」だけではなく、次の内容を具体的に伝えます。

  • いつから何kg減ったか
  • 食事量は普段の何割程度か
  • 水分は取れているか
  • 発熱、痛み、息切れ、消化器症状はないか
  • 噛む、飲み込むことに問題はないか
  • 持病や入退院、薬の変更はあるか
  • MNA-SFなどの結果
  • 本人と家族が何に困っているか

医療機関につなぐ基準は、BMIやスクリーニング点数一本で線を引けるものではありません。

低栄養が急速に進んでいる、食べられない原因が不明、病気や薬の影響が疑われる、安全に食べられない、地域で支援しても改善しない。このいずれかがあれば、医療的な評価が必要です。

「もっと食べればよい」と考える前に、「なぜ食べられないのか」「病気が隠れていないか」を確認すること。それが、医療につなぐべき低栄養を見逃さないための基本です。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]日本栄養治療学会「GLIM基準について」
[2]日本栄養治療学会「極度の低栄養状態における低血糖に伴うリフィーディング症候群」
[3]厚生労働省「高齢者の低栄養予防」e-ヘルスネット
[厚生労働省「低栄養防止・重症化予防等の推進―モデル事業実施のポイント」

初回公開日
2026年10 月3日

最終更新日
2026年10月3日