82.低栄養と要介護化――健康寿命との関係を考える

高齢期に大切なのは、寿命だけではありません。自分で食べ、歩き、着替え、買い物に行くなど、その人らしい生活をどれだけ長く続けられるかも重要です。

健康寿命とは、厚生労働省によれば「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」です[1]。低栄養予防の目的も、単に体重を増やすことではありません。生活を支える機能を守ることにあります。

低栄養は生活機能の低下とつながっている

高齢者が十分なエネルギーやたんぱく質を取れない状態が続くと、体は蓄えていた脂肪だけでなく、筋肉も分解して不足分を補おうとします。

筋肉量や筋力が低下すると、歩行や立ち上がりが難しくなり、買い物や調理、外出が減っていくことがあります。

活動量が減れば食欲が落ちることもあります。

食事量の低下→体重・筋肉の減少→動きにくさ→活動量の低下→さらなる食事量の低下

この循環が続けば、転倒や骨折、感染症、入院などをきっかけに、急に生活機能を失う可能性があります。低栄養リスクのある高齢者では、その後の身体機能低下や新たな生活障害が多いことを示した前向き研究もあります[2]。

低栄養なら必ず要介護になるわけではない

ただし、「低栄養だから要介護になる」と単純に結論づけることはできません。

要介護化には、病気、フレイル、口腔機能、服薬、認知機能、社会参加、住環境など、多くの要因が関係します。低栄養はその一つであり、病気や生活機能低下の結果として生じる場合もあります。

一方で、地域在住高齢者を対象とした国内研究では、基本チェックリストで捉えた低栄養が、3年後の新規要介護認定と関連するリスク要因の一つとして示されています[3]。

これは、低栄養を要介護化の「唯一の原因」とみなすのではなく、生活機能が低下し始めている重要なサインとして捉える必要があるということです。

健康寿命を守るには、体重だけを見ない

低栄養を早く見つけるには、BMIだけでなく、体重と食事量の変化、筋力、活動状況を合わせて確認します。BMIが標準範囲でも、意図しない体重減少に加え、食事量や歩行速度が低下していれば注意が必要です。

ほかにも、疲れやすい、外出が減った、買い物や調理が難しくなった、むせや噛みにくさがあるといった変化を確認します。一つの数値ではなく、以前の本人から何が変わったかを見ることが重要です。

「食べる」だけでは解決しないこともある

低栄養が疑われたときに必要なのは、「もっと食べましょう」という助言だけではありません。なぜ食べられないのかを確認し、その原因に介入することです。

病気は医師、薬の影響は薬剤師、食事内容は管理栄養士、口や飲み込みの問題は歯科や言語聴覚士などにつなぎます。買い物や調理の問題には、介護や配食などの生活支援も必要です。

また、筋肉を守るには栄養と身体活動の両方が欠かせません。ただし、食事量が著しく不足している人や病気のある人が、自己判断で強い運動を始めるのは適切ではありません。状態を確認し、無理のない栄養支援と運動を組み合わせます。

健康寿命は、日々の小さな変化から守る

要介護化は、ある日突然始まるように見えて、その前から「少しやせた」「歩くのが遅くなった」「外出しなくなった」といった変化が重なっていることがあります。

低栄養は、その変化を捉え、原因を探し、医療・介護・生活支援につなぐ入口になります。早く見つけても、すべての要介護化を防げるわけではありません。それでも、本人の力を守り、回復できる可能性を残すことはできます。

低栄養予防とは、食事の問題だけを解決する取り組みではありません。「自分でできる生活」を少しでも長く保ち、その人らしく暮らせる期間を支える取り組みなのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省 e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」
[2]Hai S, et al.「Malnutrition Risk, Physical Function Decline and Disability in Middle-Aged and Older Adults」Journal of Nutrition, Health & Aging, 2021.
[3]森田泰裕ほか「地域在住高齢者の基本チェックリストの各領域と3年後の転帰との関連」理学療法科学, 2021.
[4]Volkert D, et al.「ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics」Clinical Nutrition, 2022.

初回公開日
2026年10月11日

最終更新日
2026年10月11日