88.予防によって地域の医療・介護を守るという考え方

「予防によって地域の医療・介護を守る」と聞くと、医療費削減のために住民へ健康管理を求める話のように感じるかもしれません。

しかし、予防の本来の目的は、必要な治療や介護を受けさせないことではありません。本人ができるだけ長く自分らしく暮らせるようにし、救急、入院、介護が本当に必要な人へ、限られた地域資源を確実に届けることです。

重症化すると多くの支援が同時に必要になる

高齢者が肺炎、骨折、心不全などで入院すると、医師や看護師による治療だけでなく、薬剤管理、栄養管理、リハビリテーション、退院調整などが必要になります。

退院後に生活機能が戻らなければ、訪問診療、訪問看護、介護サービス、福祉用具、配食なども必要です。家族の付き添いや見守りも増えます。

しかし、生産年齢人口が減り、医療・介護人材の確保が難しくなる地域では、必要な支援を際限なく増やすことはできません。

予防には、重症化する人を減らし、必要な人へ人材や病床を振り向ける意味があります。

予防には三つの段階がある

予防は、健康な人に運動や食生活を勧めることだけではありません。三つの段階があります。

一つ目は、病気や生活機能低下を防ぐことです。予防接種、禁煙、食生活、身体活動、口腔ケア、社会参加などが含まれます。

二つ目は、変化を早く見つけることです。健診に加え、血圧、服薬状況、体重、食事量、歩行、認知機能などを確認し、必要な受診へつなぎます。

三つ目は、すでに病気や要介護状態にある人の悪化や再発を防ぐことです。慢性疾患の管理、リハビリテーション、退院後の栄養支援、服薬支援、転倒予防などが当たります。

この三つを切れ目なく行うことで、予防は医療や介護とつながります。地域包括ケアシステムも、住まい、医療、介護、予防、生活支援を一体的に提供する考え方です[1]。

本人の努力だけにしてはいけない

健康問題のすべてを本人の努力不足では説明できません。病気、障害、所得、住環境、交通、家族関係、食品の入手しやすさなども健康に影響します。

例えば、「バランスよく食べましょう」と伝えても、近くに店がない、料理ができない、義歯が合わない、薬で吐き気があるといった問題があれば実行できません。

健康日本21(第三次)でも、個人の行動と健康状態の改善だけでなく、個人を取り巻く社会環境の質を向上させることが基本的な方向に含まれています[2]。

予防を地域の仕組みにするには、本人への助言だけで終わらず、食事、移動、住まい、人とのつながりまで支える必要があります。

低栄養予防は医療と介護をつなぐ

低栄養は、予防の三つの段階すべてに関係します。

元気なうちから食事や口腔、運動を整える。体重減少や食事量低下を早く見つける。病気や退院後には、再入院や生活機能低下を防ぐために栄養状態を確認する。この流れによって、健康づくりと医療、介護を一続きにできます。

厚生労働省の高齢者保健事業ガイドラインでも、地域の低栄養状態にある高齢者を把握し、介護予防や生活の質の向上につなげる取り組みが示されています[3]。

薬局、歯科、配食、デイサービス、訪問介護などの日常的な接点が変化を見つけ、医師や管理栄養士などの専門職へつなぐことで、病院へ来る前から支援を始められます。

予防の効果は確認しなければならない

健康教室や測定会を開催しただけで、地域の医療・介護を守ったとはいえません。参加者数ではなく、必要な人を発見できたか、支援につながったか、その後に状態が改善したかを確認する必要があります。

体重や食事量、生活機能に加え、受診、入院、再入院、介護サービスの利用、生活の質などを継続して評価し、必要なら介入方法を見直します。

予防は万能ではなく、効果には個人差があります。それでも、早期発見と重症化予防を地域の日常業務に組み込むことは、本人の生活を守りながら、医療・介護の限られた力を有効に使うことにつながります。

地域の医療・介護を守るとは、サービスの利用を抑えることではありません。予防できる悪化を減らし、必要な人が必要なときに医療と介護を受けられる状態を、将来まで維持することなのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「地域包括ケアシステム」
[2]厚生労働省 e-ヘルスネット「健康日本21(第三次)」
[3]厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第2版」
[厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」

初回公開日
2026年10月15日

最終更新日
2026年10月15日