74.運動だけでフレイルを予防しようとしていませんか?

フレイル予防というと、体操教室、ウォーキング、筋力トレーニングなどを思い浮かべる人が多いでしょう。

筋力や歩行能力を維持するために、運動は欠かせません。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、高齢者には、筋力、持久力、バランス能力などを組み合わせた運動が推奨されています[1]。

しかし、フレイル予防を運動だけで考えると、十分な効果が得られないだけでなく、体調によっては本人の負担を増やす可能性があります。

特に確認したいのが、運動をするためのエネルギーや、筋肉を維持するための栄養を取れているかという点です。

筋肉は、運動だけではつくられない

運動は筋肉に対して、「今より強くなる必要がある」という刺激を与えます。

しかし、筋肉を維持・修復するためには、材料となるたんぱく質だけでなく、その働きを支える十分なエネルギーも必要です。

食事量が少なく、エネルギーが不足している高齢者が運動量だけを増やすと、消費するエネルギーがさらに増えます。運動をしているのに体重が減る、疲労が抜けない、筋力がなかなか改善しないということもあります。

つまり、

運動は筋肉への「刺激」
栄養は筋肉を維持する「材料とエネルギー」

です。

どちらか一方だけで、筋肉を十分に維持できるとは限りません。

運動を勧める前に、食べられているかを確認する

地域の体操教室や通いの場では、参加者全員が同じ運動を行うことがあります。

しかし、高齢者の栄養状態や体力には大きな個人差があります。運動を始める前に、少なくとも次のような変化がないかを確認したいところです。

  • 最近、意図せず体重が減った
  • 一日2食以下の日が増えた
  • 一食の量が以前より少なくなった
  • 肉、魚、卵、乳製品などをほとんど食べていない
  • 食欲がない
  • 噛みにくい、むせる
  • 疲れやすく、横になっている時間が増えた
  • 病気や入退院の後から体力が落ちた
  • 薬が変わってから食べられなくなった

こうした変化がある場合は、「筋力が落ちているから運動しましょう」と勧めるだけでは不十分です。

まず、低栄養リスクや病気の有無、口腔機能、薬の影響などを確認する必要があります。

厚生労働省も、低栄養をフレイルにつながる重要な要因と位置づけ、筋肉量の維持には、たんぱく質を含む食事と、身体能力に合わせた適切な運動の両方が必要としています[2]。

食事量が少ない人に「たんぱく質」だけを勧めない

フレイル予防では、「たんぱく質を取りましょう」と説明されることが増えました。

もちろん、肉、魚、卵、牛乳・乳製品、大豆製品などは、筋肉を維持するために重要です。

しかし、たんぱく質だけを増やせばよいわけではありません。

主食をほとんど食べず、食事全体のエネルギーが不足していると、摂取したたんぱく質が筋肉の維持以外に使われることがあります。まず食事全体を確認し、必要なエネルギーを確保したうえで、たんぱく質を適切に取ることが大切です。

また、腎臓病などで食事療法を行っている人や、心不全、糖尿病などを治療している人では、病状や治療方針との調整が必要です。

本人の状態を確認せず、一律に高たんぱく食品やサプリメントを勧めるのではなく、必要に応じて医師や管理栄養士に相談します。

食べられない原因を解決しなければ続かない

食事の大切さを伝えても、食べられない原因が残っていれば栄養状態は改善しません。

例えば、

  • 義歯が合わず、肉を噛めない
  • むせるため、水分や食事を避けている
  • 薬の影響で吐き気や口の渇きがある
  • 便秘や腹部膨満感で食欲がない
  • 買い物や調理ができない
  • 一人で食べることが多く、食事が面倒になった
  • 認知機能が低下し、食事を忘れる
  • 病気や炎症によって食欲が低下している

といった問題があります。

歯や義歯の問題には歯科、薬の影響には薬剤師や処方医、食事内容には管理栄養士、買い物や調理の問題にはケアマネジャーや生活支援サービスなど、原因に応じた対応が必要です。

運動教室の役割は、体操を行うことだけではありません。参加者の体重減少や食事量低下に気づき、必要な支援へつなぐ場所にもなれます。

フレイルは筋力低下だけではない

運動だけでは不十分なもう一つの理由は、フレイルが身体的な問題だけではないからです。

人との交流が減り、外出しなくなったことから活動量が落ちる場合があります。配偶者との死別や抑うつによって、食欲と意欲が低下することもあります。

体操の時間だけ体を動かしても、それ以外の時間を自宅で一人で過ごし、食事も十分に取れていなければ、フレイルの原因は残ります。

フレイル予防では、一般に次のような要素を組み合わせて考えます。

  • 栄養
  • 身体活動・運動
  • 口腔機能
  • 社会参加
  • 病気や薬の管理
  • 生活上の支援

厚生労働省も、介護予防では運動、栄養、口腔、社会参加を組み合わせた取り組みが重要であると示しています[3]。

通いの場で人と話し、一緒に体を動かし、帰りに買い物をすることは、運動だけでなく、社会参加や食生活にもつながります。

運動の内容も、一人ひとり違う

運動は、強ければ強いほどよいわけではありません。

元気な高齢者と、入院後で体力が低下した人、転倒を繰り返している人が、同じ運動を行うことは適切ではありません。

高齢者の運動では、筋力トレーニングだけでなく、歩行などの有酸素運動や、転倒を防ぐためのバランス運動を組み合わせます[4]。本人の体力や病気、痛み、転倒歴に応じて内容と強度を調整する必要があります。

次のような場合は、自己判断で運動量を増やす前に、医師やリハビリテーション専門職などへ相談します。

  • 胸の痛みや強い息切れがある
  • 急に体力が低下した
  • 短期間で体重が大きく減った
  • 繰り返し転倒している
  • 関節や腰に強い痛みがある
  • 病気や手術の直後である
  • 食事や水分を十分に取れていない

地域の運動教室に「栄養を見る仕組み」を加える

フレイル予防の教室や通いの場では、参加人数や体操の実施回数だけでなく、参加者の変化を確認することが大切です。

例えば、定期的に次の項目を確認します。

  • 体重と、その変化
  • 食事回数と食事量
  • 食欲
  • 噛みにくさやむせ
  • 転倒の有無
  • 歩行や立ち上がり
  • 外出や交流の回数
  • 病気や薬の変更

体重減少や食事量低下が見つかった場合は、管理栄養士、かかりつけ医、歯科、薬局、地域包括支援センターなどへつなぎます。

薬局であれば、服薬指導の際に、運動を始めた後の体調、体重、食事量、薬によるふらつきなどを確認できます。デイサービスでは、運動と昼食の摂取状況を一緒に観察できます。

運動する場所と、栄養や体調を確認する場所が連携することで、支援は一回限りではなくなります。

「運動か栄養か」ではなく「運動できる体をつくる」

運動は、フレイル予防の中心となる大切な取り組みです。

しかし、運動だけを提供し、食事量、口腔機能、病気、薬、社会的な問題を確認しなければ、支援が必要な人を見逃す可能性があります。

大切なのは、運動と栄養のどちらが重要かを比べることではありません。

本人が安全に体を動かし、その効果を得られるだけの栄養を取り、日常生活の中で活動を続けられる環境をつくることです。

食べる
↓
動ける
↓
外出や交流が増える
↓
食欲と生活意欲が保たれる

この良い循環をつくることが、本来のフレイル予防です。

「体操に参加しているから大丈夫」と考えず、その人が食べられているか、体重が減っていないか、生活全体がどう変化しているかまで確認する必要があります。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
[2]厚生労働省・健康日本21アクション支援システム「高齢者の低栄養予防」
[3]厚生労働省「介護予防とは?社会参加の重要性って?」
[4]厚生労働省「標準的な運動プログラム(健康増進施設)」
[5]厚生労働省「食事摂取基準を活用した高齢者のフレイル予防事業」

    初回公開日
    2026年10月7日

    最終更新日
    2026年10月7日