『高齢者の低栄養を知る100の話“76”』
高齢になると、筋肉量や筋力は少しずつ低下しやすくなります。
さらに、病気による入院、外出機会の減少、食欲低下などが重なると、その低下は速くなることがあります。筋肉が減れば、歩く、立ち上がる、買い物に行くといった日常生活の動作が難しくなり、転倒やフレイルにつながります。
筋肉を守るために必要なのが、運動と栄養です。
運動は筋肉に刺激を与え、栄養は筋肉を維持・修復するための材料とエネルギーを供給します。どちらか一方ではなく、両方を本人の状態に合わせて組み合わせることが大切です。
運動と栄養は、それぞれ役割が違う
筋肉は、使わなければ減っていきます。
長時間座ったまま過ごす、外出しない、入院や病気で安静にするといった状態が続けば、筋肉への刺激が減ります。
そこで必要になるのが運動です。特に、立ち上がりやスクワットなど、筋肉に適度な負荷をかける運動は、筋力を維持するための重要な刺激になります。
一方、運動によって刺激を受けた筋肉が回復するためには、エネルギーとたんぱく質などの栄養が必要です。
食事量が不足していると、運動をしても筋肉を十分に修復できません。反対に、栄養を取っていても、体をほとんど動かさなければ、筋肉への刺激が不足します。
運動だけ
→ 筋肉への刺激はあるが、材料が足りないことがある
栄養だけ
→ 材料はあっても、筋肉を使う刺激が足りないことがある
運動+栄養
→ 筋肉を使い、回復させる流れをつくれる
これが、「運動×栄養」が必要な理由です。
サルコペニアに関する国際的な診療ガイドラインでも、筋力を使う運動が強く推奨され、状態に応じたたんぱく質補給などの栄養支援が選択肢として示されています[1]。
筋肉を守る運動は、筋力トレーニングだけではない
筋肉を守る運動というと、重い器具を使った筋力トレーニングを想像するかもしれません。
しかし、高齢者に必要なのは、体力や病気に合わせて複数の運動を組み合わせることです。
筋力を使う運動
椅子からの立ち上がり、かかと上げ、壁を使った腕立てなど、日常生活に近い動きから始めます。
立つ、階段を上る、荷物を持つといった動作に使う筋肉を刺激します。
有酸素運動
無理のない範囲の歩行や自転車運動などは、持久力の維持に役立ちます。
買い物や散歩など、生活の中で体を動かすことも身体活動に含まれます。
バランス運動
片足立ちなどは、転倒予防に関係します。ただし、転倒リスクが高い人は、壁や椅子につかまる、誰かに見守ってもらうなど、安全を確保します。
厚生労働省も、高齢者には筋力、有酸素、バランスなどを含む複数の要素を組み合わせた運動を勧めています[2]。
大切なのは、最初から強い運動を行うことではありません。本人が安全に続けられ、少しずつ負荷を調整できる内容にすることです。
栄養は、たんぱく質だけではない
筋肉の話になると、たんぱく質ばかりが注目されます。
肉、魚、卵、牛乳・乳製品、大豆製品などに含まれるたんぱく質は、筋肉を構成する重要な材料です。
しかし、食事全体のエネルギーが足りなければ、摂取したたんぱく質がエネルギー源として使われ、筋肉の維持に十分利用されないことがあります。
そのため、まずは一日を通して必要な量を食べられているかを確認します。
基本となるのは、次の組み合わせです。
- 主食:ご飯、パン、麺など
- 主菜:肉、魚、卵、大豆製品など
- 副菜:野菜、海藻、きのこなど
- 必要に応じて乳製品、果物、間食
一度に多く食べられない場合は、一食の量を無理に増やすより、食事回数を増やしたり、少量でエネルギーやたんぱく質を取れる食品を活用したりします。
厚生労働省も、高齢者の筋肉量を維持するため、主食によるエネルギーの確保と、毎食たんぱく質を含む食品を取ることを勧めています[3]。
たんぱく質は一食に偏らせない
朝はパンとコーヒーだけ、昼は麺類だけ、夜に肉や魚をまとめて食べるという食生活では、朝食と昼食のたんぱく質が少なくなります。
たんぱく質を夜だけに偏らせず、三食それぞれに取り入れることを考えます。
例えば、
- 朝食に卵、牛乳、ヨーグルト、チーズ、納豆を加える
- 昼食の麺類に卵、肉、魚、大豆製品などを加える
- 夕食では肉や魚を主菜として食べる
- 間食に乳製品や豆乳などを利用する
といった方法があります。
ただし、「毎食必ず多量の肉を食べる」という意味ではありません。食欲、体格、活動量、病気、普段の食生活に合わせた調整が必要です。
腎臓病などで食事療法を行っている人は、たんぱく質量を自己判断で増やさず、医師や管理栄養士に相談します。
運動直後だけ食べればよいわけではない
「運動後すぐにプロテインを飲まなければ筋肉がつかない」と考える人もいます。
運動後に栄養を取ることは筋肉の回復を支えますが、特定の時間だけにこだわるより、一日を通して必要なエネルギーとたんぱく質を確保することが基本です。
食事の時間が近ければ、運動後に普段の食事を取る方法でも構いません。一度に食べられない人は、運動の前後に少量の間食を利用することも考えられます。
栄養補助食品やプロテインは、食事だけで不足する場合の選択肢ですが、すべての高齢者に必要なものではありません。
食事量、病気、薬、嚥下機能などを確認し、必要に応じて管理栄養士などに相談して選びます。
一日の生活の中で組み合わせる
運動と栄養は、特別なプログラムだけで行うものではありません。
例えば、
- 朝食に卵や乳製品を加え、午前中に散歩する
- 昼食に魚や大豆製品を取り入れ、午後に椅子からの立ち上がり運動を行う
- 通いの場で体操をした後、仲間と食事をする
- デイサービスで運動と食事摂取量を一緒に確認する
- 薬局で体重、食欲、運動後の疲労、薬の影響を確認する
というように、普段の生活へ組み込むことができます。
続けるためには、完璧な食事や厳しい運動計画よりも、本人が無理なく繰り返せる方法を選ぶことが大切です。
組み合わせる前に原因を確認したい人もいる
筋肉が減ったように見えても、その原因が加齢や運動不足だけとは限りません。
次のような場合は、運動と食事を自己流で強化する前に、医療機関へ相談します。
- 短期間で大きく体重が減った
- 食欲低下や強い疲労感が続く
- 発熱、痛み、息切れなどがある
- 急に歩きにくくなった
- 繰り返し転倒している
- 病気や手術、退院の直後である
- むせや飲み込みにくさがある
病気、炎症、薬の有害事象、口腔・嚥下機能の低下などが原因であれば、その問題への対応が必要です。
体重だけで効果を判断しない
運動と栄養の取り組みを始めたら、定期的に変化を確認します。
確認したいのは、体重だけではありません。
- 食事量を維持できているか
- 強い疲労が残っていないか
- 椅子から立ち上がりやすくなったか
- 歩行速度や歩ける距離がどう変わったか
- 握力やふくらはぎの太さが変化したか
- 転倒が減ったか
- 買い物や外出を続けられているか
筋肉量が大きく増えなくても、立ち上がりや歩行が改善し、生活の中でできることが増えていれば、重要な効果です。
反対に、運動を続けていても体重が減り、疲れやすくなっている場合は、運動量と食事量のバランスを見直します。
筋肉を守る目的は、筋肉の数字を増やすことだけではありません。
歩く、食べる、外出する、人と会うといった生活を長く続けることです。
そのためには、運動を栄養で支え、栄養を体の活動につなげる必要があります。
「運動×栄養」を一体として考えることが、高齢者の筋肉と生活機能を守る基本です。
執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金
参考文献・参考資料
[1]Dent E, et al. “International Clinical Practice Guidelines for Sarcopenia(ICFSR).” Journal of Nutrition, Health & Aging. 2018;22:1148-1161.
[2]厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
[3]厚生労働省・健康日本21アクション支援システム「高齢者の低栄養予防」
[4]Volkert D, et al. “ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics.” Clinical Nutrition. 2022;41(4):958-989.
[5]厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
初回公開日
2026年10月7日
最終更新日
2026年10月7日
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