84.高齢者が一人要介護になることが家族に与える影響

高齢者が要介護状態になると、生活が変わるのは本人だけではありません。家族の時間、仕事、家計、健康、家族関係にも影響が広がります。

介護は、食事や入浴を手伝う時間だけでは測れません。転倒、服薬、食事、夜間の様子を気にかける時間も含まれます。別居なら、電話確認や急な呼び出し、通院のための移動も必要です。

一人の要介護化は、家族全体の暮らしを組み替える出来事になり得ます。

家族の時間が介護を中心に動き始める

介護が始まると、家族は通院の付き添い、買い物、調理、掃除、排泄や入浴の介助、介護サービスとの連絡などを担うようになります。

要介護度が上がれば、介護に必要な時間も増える傾向があります。2022年の国民生活基礎調査では、同居する主な介護者について、要支援1から要介護2までは「必要なときに手をかす程度」が多い一方、要介護3以上では「ほとんど終日」が最も多くなっていました[1]。

介護時間が長くなると、自分の通院、睡眠、運動、友人との交流などが後回しになりがちです。介護者自身も高齢である場合は、腰痛や持病を抱えながら介助を続けることもあります。

同じ調査では、要介護者と同居する主な介護者がともに65歳以上である「老老介護」に当たる組み合わせが63.5%でした[1]。支える側も健康上の問題を抱えやすいことを前提に考える必要があります。

仕事と収入にも影響する

働く家族は、急な受診や介護サービスの調整のため、遅刻、早退、欠勤を重ねることがあります。勤務時間を短くしたり、責任のある仕事を断ったりすれば、収入や昇進、将来の年金にも影響しかねません。

総務省の2022年就業構造基本調査では、介護・看護を理由に過去1年間に前職を離れた人は10万6千人でした[2]。介護離職は本人の収入だけでなく、企業にとっても経験を積んだ人材を失う問題です。

一度離職すると、介護が終わっても同じ条件で働き直せるとは限りません。介護休業や介護休暇、短時間勤務などの制度は、仕事を辞める前に情報を集め、職場へ相談するためにも活用できます[3]。

家計と心の負担は見えにくい

介護保険サービスには自己負担があり、紙おむつ、配食、福祉用具、住宅改修、通院交通費などの支出も生じます。遠距離介護では交通費や宿泊費が重なることもあります。

同時に、「十分に介護できていないのではないか」「施設を利用するのは申し訳ない」といった罪悪感を抱く人もいます。本人が支援を拒んだり、きょうだい間で役割分担に差があったりすると、家族関係が悪化する場合もあります。

こうした負担は外から見えにくいため、介護者が限界になるまで周囲が気づかないことがあります。「家族なのだからできて当然」という考えは、本人と介護者の双方を追い詰めます。

食事の問題は家族の負担になりやすい

低栄養や食欲低下があると、家族は食べられる物を探し、何種類も料理を作り、食事を見守るようになります。それでも食べてもらえなければ、焦りや衝突が生まれることがあります。

しかし、食べられない背景には、病気、薬の影響、歯や義歯、飲み込み、認知機能、抑うつなどが隠れているかもしれません。家族の調理や声かけだけで解決できない問題です。

「最近やせた」「食事を残す」「むせが増えた」と気づいたら、本人を責めたり無理に食べさせたりせず、かかりつけ医、歯科、薬局、管理栄養士、ケアマネジャーなどに共有します。低栄養を早く見つけて原因に介入することは、生活機能の低下を防ぎ、介護負担を小さくする可能性があります。

介護を家族だけで抱え込まない

介護保険は、高齢者の介護を社会全体で支えるために設けられた制度です[4]。家族がすべてを引き受けることを前提にしてはいません。

地域包括支援センターや市区町村の窓口へ早めに相談し、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、配食、福祉用具などを組み合わせます。ケアマネジャーには本人の状態だけでなく、介護者の仕事、健康、睡眠、経済状況も伝えることが大切です。

要介護者を支えるには、家族が無理なく支え続けられる環境が必要です。本人の自立を守ることと、家族の生活を守ることは別々の課題ではありません。早めの健康支援と介護サービスの活用により、本人と家族を支えることが必要です。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況―介護の状況」
[2]総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」
[3]厚生労働省「介護休業制度特設サイト」
[4]厚生労働省「介護保険制度の概要」

初回公開日
2026年10月13日

最終更新日
2026年10月13日