85.高齢化だけではない――「人口減少」が地域医療を変える

日本の医療・介護の将来は、「高齢者が増える」だけでは説明できません。医療や生活を支える人も減るからです。

人口減少が進む地域では、患者数とともに医療・介護職、交通事業者、商店の担い手も減ります。高齢者を支える資源を、これまでと同じ形で維持することが難しくなります。

人が減っても医療の必要性が同じ割合で減るとは限らない

国立社会保障・人口問題研究所は、出生、死亡、国際人口移動について一定の仮定を置き、2070年まで人口減少が続く将来像を示しています[1]。

しかし、人口が減れば医療需要も一律に減るわけではありません。高齢になるほど、複数の病気を持ち、医療と介護を同時に必要とする人が増えるからです。

大都市部では85歳以上の高齢者を中心に医療需要の増加が見込まれる一方、過疎地域では人口そのものが減り、医療需要が縮小する地域もあります。地方都市でも、高齢者がしばらく増える地域と、すでに減り始める地域があります[2]。

つまり、全国に同じ医療体制を当てはめることはできません。地域ごとに人口構成、移動距離、医療機関、人材を見ながら、必要な体制を考える必要があります。

病院や診療所を維持することが難しくなる

人口が減ると、患者数や医療従事者を確保できず、すべての医療機関が現在と同じ機能を持ち続けることは難しくなります。

手術や救急など多くの人員・設備が必要な医療は、一定の地域に集約される可能性があります。一方、慢性疾患の管理、在宅医療、服薬支援、栄養管理、看取りなど、暮らしに近い医療の重要性は高まります。

厚生労働省も、2040年に向けた医療提供体制について、生産年齢人口の減少による人材確保の困難を見込み、医療機関の役割分担と連携、医療DX、タスクシフト・シェアなどを進める必要性を示しています[2、3]。

「一つの施設ですべてを行う」のではなく、病院、診療所、歯科、薬局、訪問看護、介護事業所などが情報を共有し、地域全体で機能を補う形への転換が必要になります。

通院できないことが健康問題になる

路線バスや商店がなくなり、家族が遠方に住んでいれば、受診、薬の受け取り、買い物も難しくなります。

医療機関が存在していても、そこへ行けなければ利用できません。オンライン診療や医薬品配送が役立つ場面はありますが、採血、身体診察、口腔や嚥下の評価など、対面でなければ得にくい情報もあります。

移動手段、訪問サービス、送迎、地域の見守りまで含めて医療へのアクセスを考えることが必要です。

人口減少は「食べる環境」も変える

近所のスーパーが閉店し、配食の担い手が不足し、家族の支援も得にくくなれば、高齢者は食べ物を入手しにくくなります。総菜や保存食品に偏る、食事回数が減るといった変化から、低栄養が進むこともあります。

それでも、食生活の変化だけでは医療機関を受診しない人は少なくありません。低栄養を病院だけで見つけようとすると、転倒や感染症で入院した後に初めて発見される可能性があります。

そこで重要になるのが、地域に残る日常の接点です。薬局、配食、訪問介護、デイサービス、歯科、スーパー、通いの場などが、体重減少や食事量の変化に気づき、医療や栄養支援へつなぐ仕組みを持つ必要があります。

少ない人材で支えるには、早く見つける

人口減少時代には、問題が重くなってから専門職を大量に投入する方法だけでは支えきれません。日常の業務の中で変化を見つけ、必要な人を選び、適切な専門職へつなぐことが重要です。

これは、専門職の代わりを地域住民や事業者に任せるという意味ではありません。地域の接点は発見と情報共有を担い、診断や治療、専門的な栄養管理は医療・栄養の専門職が担うという役割分担です。

人口減少によって、地域医療は「近くに多くの施設があること」だけでは維持できなくなります。限られた資源をつなぎ、予防から医療、介護、生活支援までを切れ目なく届ける仕組みが必要です。

低栄養予防は、その仕組みをつくる具体的な入口になります。「最近やせた」「食べられなくなった」という小さな変化を地域で共有することが、医療資源の乏しい時代に、高齢者の生活を守る力になるのです。


執筆者:一般社団法人在宅栄養ケア推進基金

参考文献・参考資料

[1]国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
[2]厚生労働省「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」
[3]厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想について」
[4]国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」

初回公開日
2026年10月13日

最終更新日
2026年10月13日